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【書評】コミュニケーションの目的を変えよう。平田オリザ著『わかりあえないことから』要約、感想

 

本書は、劇作家であり劇団青年団 団長の肩書を持つ平田オリザさんによって書かれたコミュニケ―ションに関する本です。

 

 

『わかりあえないことから』の概要

世間では、ただ漠然と「コミュニケーション能力」が、やみくもに求められている。

いったい人びとは、そこに何を欲しているのだろうか?

中高年の管理職たちは、近頃の若者はコミュニケーション能力がないと嘆いている。

はたして本当にそうなのだろうか?

学校の先生方や親たちは、子どもの気持ちがわからないと嘆く。

何が問題なのだろうか?p3、p4

 

 

「わかりあう」ことに重点が置かれた日本のコミュニケーション教育に疑問を持ち、わかりあえないことを前提に、そこから出発するコミュニケーションについて著者の考えを語っています。

 

コミュニケーション能力とは何か?

表立って、コミュニケーション能力というと、

異なる文化や価値観を持った人に対しても、自分の主張を伝えることができる。

文化的な背景の違う人の意見も理解し、説得・納得し、妥協点を見いだすことができる。

そのような能力を以て、グローバルな経済環境でも、存分に力を発揮できる能力

のことを言います。 

社会のなかではこのようなコミュニケーション能力を持っていることが重視されます。

 

しかし、企業の中では「上司の意図を察して機敏に行動する」「輪を乱さない」といった能力も同時に求められます。

これはわかり合う、察し合うことを美徳とした古き良き日本社会のあり方がまだ根強く残っているからだと思われます。

 

このことから、日本の社会では矛盾した二つの能力を同時に要求されることになるのです。

それが若者の離職やうつ病、生きづらさに繋がっていると著者は考えます。

 

 

分かり合えないことを前提としたコミュニケーション

これからますます国際化し、多様化した社会となっていきます。

「言わなくても察する」「輪を乱さないようにする」といった日本の昔ながらの価値観は時代に合わなくなってきています。

 


そして、一人一人異なる文化、異なるコンテクストで育っている以上、「わかり合う」ということがどんどん難しくなっていくと考えられます。

 

それなのに、日本のコミュニケーション教育、あるいは従来の国語教育でも、分かり合うことに重点が置かれています。

 

人は本来分かり合えない。

分かり合えないままで、どうにかしてうまくやっていく方法を見つける。 

これをコミュニケーションの目標にするといいのではないか、と著者は語っています。

 

感想

 著者は劇団に携わっているため、コミュニケーション教育に演劇を取り入れることが有効だと考えています。

演劇を取り入れた教育は、世界的にもすでに進められていて、本屋大賞ノンフィクション賞をとった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でもイギリスで行われている教育事例として紹介されていました。

コミュニケーション教育は多くの国で重要視されているようですね。

 

自分は内向的で、コミュニケーション能力が乏しく、それが欠点だなと常日頃感じていました。

この本は、そんなモヤモヤした気持ちを解決するヒントを与えてくれました。

内向的なままでいい。

性格を無理やりかえようとしなくていい。

仕事を円滑にすすめるために必要な姿を演じればいいんだ、ということがわかり気持ちが楽になりました。

 

そして無理矢理「わかり合う」必要はないということを知りました。

お互いに納得しなくても、組織としてその後の行動の指針ができればいいのだということに気が付きました。

 

コミュニケーションについて論じた本として、読者に示唆を与えてくれる名著だと思います。よかったら読んでみてください。

 

 平田オリザさんの他の著書紹介

 

幕が上がる (講談社文庫)

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