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【書評】『64』から6年。横山秀夫がおくる建築ミステリー『ノースライト』あらすじ、感想

ノースライト

ノースライト

  • 作者:横山秀夫
  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: Kindle版
 

 

2020年本屋大賞 第4位。

『64(ロクヨン)』から6年。人気作家・横山秀夫が贈る、長編建築ミステリー小説です。

 

『ノースライト』の詳しいあらすじ

「あなたの建てたい家を建ててください。」

そんな依頼を受けて一級建築士・青瀬の建てた家は、北側から光がふんだんに差し込む木造建築の家。

信濃追分に建つその家は、「住まい100選」にも選ばれ、青瀬の代表作となった。

その後家主に電話でコンタクトを取ろうとするも、いつも応答がない。

不思議に思った青瀬は、直接信濃追分に向かい家を訪ねることにする。

しかし、住んでいるはずの施工主家族の姿はなく、鍵はこじ開けられたように壊されており、生活をしていた気配もない。

ただ一脚の古い椅子だけが浅間山を望むように残されていただけだった。

手掛かりである椅子を調べてみると、それは建築家ブルーノ・タウトの作品を模した椅子だと判明。青瀬は残されたタウトの椅子から施工主の動きを辿っていく。

一方青瀬の所属する建築事務所の所長・岡崎は、メモリアルホールの受注コンペに勝つために手段を選ばずに奔走していた。

その手段が警察に目を付けられ、岡崎をはじめ事務所は苦しい立場へと追いやられる。

はたして家主は見つかるのか、タウトの椅子の謎とは、そして事務所の命運はどうなってしまうのか――。

 

感想、まとめ

横山秀夫といえば警察小説、というイメージを持っていたので建築というジャンルなのは珍しいなぁと思いました。

かなり専門的な建築用語も出てくるため、理解が難しいところもあります。

ただその分、建築家の仕事内容や裏事情なんかも知ることができ、お仕事小説として楽しむこともできます。

もちろん、建築関係の仕事をされている方には理解がしやすく、より興味深く感じられる内容だと思います。

 

そして感じたのは、この主人公の建築家・青瀬さん、やたらフットワークが軽い。

失踪した施工主家族を探すために、車で電車で、全国色々なところへ駆けまわる様は探偵さながら。

普通建築家がこんなことまでするかなぁ、警察にまかせるんじゃないかなぁと思いながら、どこかに訪れるたびに青瀬が真相に迫っていくため、ページをめくる手がとめられなくなります。

本書はもともと刊誌「旅」に連載されていて、全面的な改稿を経て刊行に至ったそうなので、そういった事情から旅(移動)のシーンが多いのかもしれませんね。

 

横山秀夫さんというと、ミステリーの構成の巧みさだけでなく、登場人物の心情を豊かに描く書き手としても知られていますよね。

特に、家族との関係にヒビが入っている疲れた中年男性の心情を描くのが上手い(笑)

今回もその手腕は健在でした。

主人公青瀬の過去と過去を経ての現在の心情が丹念に描かれているため、彼自身の人生の物語に惹きつけられます。

主人公青瀬や事務所の所長・岡崎の、長年企業戦士として働き、バブルも経験し、酸いも甘いも味わってきた人生に熱いドラマがあって、胸を打たれました。

 

建築ミステリーを主軸としながら、人間の生き方の是非を問いかける熱き激しい人生ドラマでもある本書、これもいつかドラマや映画で映像化されそうな気がします。

 

わたしが読んだ本屋大賞ノミネート作の中でも、かなり好きな作品でした。

 

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